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くらしかるあわー
物好きの物好きによる物好きの為の毒電波発信のべる。
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2024/05/03 (Fri) 06:36
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2010/04/02 (Fri) 18:28
 

風。
風が吹いてる。
なんて優しい風なんだろう。
カーテンが風にその身を任せて揺らぐ。
ふわり、ふわりと。
今まで変に恐怖心を抱いていたのが馬鹿らしくなるくらいに夏の爽やかな風が教室中を吹きぬけた。
「……さん、椎名さん!」
木之原の声が聞こえる。
そんなに大きな声を出すなんて、木之原らしくないな。
奈々緒のやかましさに悪影響を及ぼされたんじゃないのかと心配してしまう。
「椎名さんっ!」
「あ……! ごめん、なに?」
「急に黙り込んじゃったから、私、心配しました……」
本気で心配してくれたみたいなのか、木之原の瞳に微かに涙の色が滲んでいた。
どうやら僕はいつの間にか黙り込んでいたみたいだ。
木之原には心配させてしまったな。
「修兵ちゃーん、目の前の女の子が綺麗だからって節操なしに浮気しちゃあダメだぜぇ!」
「奈々緒、うるさい」
「しゅーん」
奈々緒が言うとおり、目の前には一人の女の子がいた。
少なくとも同じクラスメイトではないな。
制服の上からでも分かる僕のおっぱいEYEがどのクラスメイトの子とも一致しない。
「へいへーい!! 君ももしかしてナナちゃんたちと同じ補習の学生ですかぁ!?」
さすが空気を読めないことで有名な奈々緒だ。
だが、今回のファインプレーは賞賛に値するぞ奈々緒!
「お前みたいな馬鹿者と一緒にするな」
「んなっ!」
きっと初対面であろう奈々緒に対して馬鹿者扱いした少女は、持っていた分厚い本をぱたりと閉じて僕たちの方に近づいてきた。
「貴様が椎名修兵か?」
「ああ、そうだけど」
威圧的な態度。
癪に障るが、いやにその態度に品があるため、苛立ちよりも先にたじろいでしまう。
「私は藤林鈴だ、よろしく頼む」
そう名乗った学生、藤林鈴は僕に握手を求めてきた。
な、なんなんだ……一体これは。
これはあれか、ドッキリのイベントか何かなのか。
とりあえず、差し出してきた手を握り返した。
「あ、ああ……椎名修兵だ、よろしく」
「後ろにいるのが、木之原桜子と言ったか」
「ど、どうして私の名前を知っているんです……?」
そうだ。
あまりの急展開過ぎて一番大事なところが欠落していた。
どうして僕たちの名前を知っている。
「な、なあ……藤林さん」
「藤林だけでいい」
「じゃあ……藤林、どうして僕たちの名前を知っているんだ?」
ふん、と鼻で藤林は笑う。
「自分たちが有名なのを本人が知らないというのは実に滑稽だな」
「僕たちが有名?」
「ああ、貴様と広瀬はFool2(フールズ)という通り名なのは有名な話だ」
なんだと……!?
奈々緒はいいとして、どうして僕も奈々緒と括りあわされてそんな馬鹿みたいな通り名で呼ばれているんだ。
そういえば、確かに最近自然と僕のまわりから友達が去っていくのもそれに関係していたのかよ!?
恐るべし、広瀬奈々緒。
他人を不幸にさせることだけはずば抜けて達者だな。
「それと、木之原桜子」
「は、はいっ!?」
「君は男子学生からかなりの好意を抱かれている、そんな女学生は噂にも立ちやすい。すなわち、私の耳にも入ってくるのは当然と言ったところではないか?」
「あわわ……あわわわわ!」
まるでゆでだこみたいに顔を真っ赤にして、木之原は俯いてしまう。
「修兵ちゃーん……ナナちゃん、こいつ嫌いだぜぇ……」
「聞こえているぞ、広瀬」
「は、はひぃ!」
鼠に思い切り噛まれた猫みたいな顔をして奈々緒が飛び上がる。
奈々緒のこんな表情を見るのははじめてかもしれない。
「しかし、藤林。さっき「貴様が」と言ったけど、まるで僕たちが来るのを予想していたみたいな言い方だったな?」
「ああ、予想していたとも。だがそれは、私に聞くよりも、のちに来る者に聞いたほうがいいだろう」
「つまり、藤林はそのあとからくる奴に呼ばれてここに来た、そんなところか?」
「貴様が聡明で助かる」
なんだ、余計に分からなくなってきたぞ。
僕たちは今日補習という名目でここに来た。
しかし、実際のところは補習はない。
藤林はというと誰かに呼ばれてここに来た。
つまり僕たちは騙されていたということなのか?
だけど何の目的があってそんなことをする必要がある。
ダメだ……分からない。
ただ、一つだけ分かることといえば。
「おい、藤林」
「ん、なんだ?」
「その、貴様と呼ぶのはやめてくれないか。あまり気持ちのいいものじゃない」
ふふ、とまた藤林は鼻で笑う。
さすがに二度目となると少々苛立ちが立ち込める。
「なんだ、そんな些細なことか」
「些細かどうかは僕が決める」
「ふふふ。分かったよ、椎名」

………。
……。
…。

藤林鈴。
おかしな学生だ。
威圧的な態度もだが、どこか学生離れした、達観しているような女だ。
小夜とはまた違ったミステリアスな雰囲気を秘めている。
一応、警戒しておいて損はないだろう。
「ん、なんだ?」
僕の視線に気がついたのか、藤林は顔だけこちらに向けて僕の反応がないと分かるとまた分厚い本に目を戻した。
それにしても……無い。
大事なものが無いんだ。
藤林には決定的に欠けているものがある。
それはいったいなんだ?
ああ、おっぱいだ。
顔は綺麗なほうだし、スカートから伸びるすらりとした脚もいい。
だが、ダメなんだ!
藤林にはおっぱいが足りない。
天は二物を与えずというが、そのことわざは藤林の為にあるようなものだと実感した。
あいにく僕は貧乳属性は持ち合わせていない。
ああ、ロリっ娘なら断然有りだけどな。
「それにしてもー、そのあとから来る奴っていうのはいつ来るんだぜぇ? ナナちゃん、そろそろ帰りてえぜぇ!」
「藤林、いつ頃来るかは聞いてないのか?」
奈々緒がしびれを切らすのも無理はなかった。
僕たちが藤林に会ってからもう30分以上は過ぎている。
それなのに藤林を呼んで、僕たちを騙した奴は未だ来る気配はない。
「私もこの教室とだけ伝えられて、それっきりなんだ。すまない」
無責任な奴だな……。
それからまた沈黙が教室内を包んだ。
「椎名さん、椎名さん」
僕だけに聞こえるような声で木之原が耳打ちしてきた。
「なに?」
「あの……私のことも、木之原って……呼んでください」
たどたどしく木之原はそんなことを伝えてきた。
相当な勇気を振り絞ったのか、木之原の目には涙が浮かんでいた。
名前の呼び名一つ変えるということで、ここまで勇気を出して伝えるのは今日日木之原だけなんじゃないかと思う。
女の子らしすぎる女の子だな、木之原は。
「分かったよ、木之原」
「は、はいっ!」
目を輝かせて、木之原は嬉しそうに返事をした。
そこまで嬉しがられるとなんだかこっちも恥ずかしくなってきてしまう。
「ちぇー!! なんだよお二人さーん! ナナちゃん、置いてけぼりとかひどくねぇ?」
「ふふっ、仲睦まじいのはいいことではないか」
「じゃあ、ナナちゃんと仲睦まじくなってナナちゃんのマグナムトライでもするかーい!?」
「だが断る」
「即答ですかぁ!!」
最初は警戒こそしていたが、案外藤林はいい奴なのかもしれない。
表情には出さないが藤林も怖かったんだと思う。
誰に呼ばれたのかは分からないけど、誰もいない薄気味悪い学園で一人教室で待つことは想像以上に辛いと思う。
だから、今こうして僕たちと話していることで少なからず安心している。
まあ、これは僕の勝手な推測だが。
「ん、静かに。廊下のほうから足音が聞こえないか?」
藤林の一声で、全員が廊下のほうに耳を傾けた。
確かに足音が聞こえる。
「廊下を走ってるような足音ですね……」
「随分とナナちゃんたちを待たせたんだぜぇ? 悠長に歩いて来たりでもしたらナナちゃんマウントとってやんよぉ!」
「奈々緒、うるさい」
「しゅーん」
足音は確かに聞こえるが、複数の足音のような気がする。
てっきり一人だと思っていたけど……。
藤林のほうを見たが、藤林も分からないらしく首を横に振った。
くそ……なんなんだよ、今日は。
近くにあった木製の箒を手に取り、最悪な事態を想定して箒を斜に構えた。
足音がだいぶ近い。
「椎名さん……」
木之原の不安げな声がやけに教室中に響き渡る。
近づく足音は教室の前にまできて……止まった。
息つく間もなく次の瞬間、力任せに教室のドアが開けられた。

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自己紹介:
倉子かるです。
Xbox360で遊んでいたりします。
紆余曲折しながら書いてます。
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