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くらしかるあわー
物好きの物好きによる物好きの為の毒電波発信のべる。
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2024/05/02 (Thu) 23:53
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2010/03/29 (Mon) 17:47
 

8月3日

カーテンを開けると朝の眩しい光が部屋の中に差し込んできた。
耳を澄ませば、小鳥のさえずり声が聞こえてきそうな爽やかな朝だ。
投函された新聞に目を通しつつ、朝食の準備をはじめる。
準備といっても、それほど大したことじゃない。
朝食は決まってシリアル食品に豆乳をかけて、あとは食後のコーヒー用にお湯を沸かすだけだ。
実に質素だ。
別にお金がないわけじゃない。
……。
半分正解半分不正解。
学生は金がない、なんて誰が最初に言い始めたのかは分からないけれど、まあ、まさにそのとおりだと思う。
ただ、ちょっと大げさに言ってみれば言動の一つ一つが優雅さに満ちてくるだろ。
あとに残るのは空しさと、何も残ってないからっぽの僕の腹だけだけど。
ぎゅーぎゅーなるお腹の虫は無視して、新聞の記事を読み始めた。
言っておくが、僕はなにもギャグを言いたかったわけじゃない。
偶然の産物というのは実に恐ろしいものだ。
「……」
これといって面白い記事があるわけではなかった。
優先すべき事項をぐずぐずと先延ばしにしてた問題がやっと解決された記事があったり、どこか遠くの国で大震災が起きて、街と一緒に治安も崩壊したけどようやく復興の目処がたった記事が載っていたり、僕の学生生活とは何ら関係もない事ばかりだ。
まあ、そんなものだと僕は思うけどね。
どこかで何かが起きたとしても、結局自分に関わりがなければ所詮ワイドショーの一コマに過ぎない。
簡単に記憶の倉庫に閉まってしまう。
バタフライ効果でもあるならまだしも、それに当たる確立なんて宝くじに当たる確立のそれだ。
だからこそ、人の記憶能力はすごいと思うね。
自分の身のまわりのことや、良かったことは覚えて、どうでもいいこと、悪いことなんてすぐに忘れてしまう。
「……お」
流し読みしてたものだから、危うく見逃すところだった。
社林七夕。
県内の記事の中で大きく書かれてたのに、興味がないという無関心のせいで飛ばされてしまうのは少し酷な話だな。
そういえば、もうそんな時期か。
社林市の大イベントに分類されるほうだと思う。
ここ、社林市は地方都市の中ではわりかた大きな方だ。
だけど、中途半端。
実に中途半端。
これといって何かあるわけでもないし、見るものも少ない。
都市とは名ばかりの田舎街だ。
そんな社林市が観光客を集めるための夏の大イベント。
それが、社林七夕。
住んでるこっちとしては人が密集するし、見慣れて面白くもないから迷惑といえば迷惑なんだけどな。
「おっと、もうこんな時間か」
気付けば、時計の針がだいぶ進んでいた。
夏休みに入っても学校に行かなくちゃいけないとは、実におかしな話だ。
大体補習なんて誰のせいでなったと思う。
「はいっ、僕でーす!」
……。
秒針がこくこくと無情に音を立て、進んでいく。
馬鹿らしい、さっさと行くか。

玄関のドアを外に出ると、ちょうど隣のドアも開いて木之原桜子が出てきた。
「あれ、椎名さんも今出かけるところですか?」
「ああ、そうなんだ。木之原さんも?」
「ええ、ちょっと学校に用事があって」
「なら僕と一緒だな」
木之原桜子。
僕と同じ学園のクラスメイトだ。
おっとりしていて、どこか抜けた感じなんだけど、そこが可愛い。
制服の上からも分かるほどのおっぱいだが、嫌に強調し過ぎず、そこがまた健気で可愛い。
上品な笑顔も可愛い。
声も可愛い。
なんなんだこの完璧女子は!?
「どうかしましたか? 私の顔に何かついてます?」
つい、まじまじと木之原の顔を見てしまったものだから、不思議そうに木之原は僕の顔を覗いてきた。
「い、いやっ! なんでもない!」
「ううん?」
焦って声が上擦ってしまう。
いまだに不思議そうな顔でぺしぺしと軽く叩きながら、木之原は自分の顔を調べている。
確かにこれは学園で密かに人気なのも頷けるな。
学園のどこかで耳にしたそんな話をふと思い出した。
「っと、僕は学校に急がなくちゃいけないんだった」
「あわわわわ。私もでした!」
「私も……? というと、木之原さんも補習?」
「は、恥ずかしながら……」
耳まで赤くして、木之原は俯いてしまう。
おいおい。
こんな状況誰かに見られたら、僕が木之原に何かしたと思われるじゃないか。
「き、気にすることないよ! 僕もなんだ! それよりも早く行かないと補習に間に合わなくなってしまうぜ!」
「椎名さんも……?」
うっすらと目じりに涙を浮かべて、木之原は顔をあげた。
ああ可愛いな畜生!
このままじゃ埒があかないから、僕は木之原の手を掴み拉致した。
「あわわわわ! 椎名さん、無理やりはダメですぅ……!」
「変に誤解を招く言い方をするなぁー!!」
木之原の手を引いて、僕たちは階段を駆けた。

群青色の空が続いていた。
どこまでも、どこまでも。
空に境界線も無ければ、終わりもない。
最古から今に続く空だけは何も変わっていない。
走りながら、柄にもないことを考えていた。
「し、椎名さん……は、は、速いですぅ……!」
「うおっ! ごめん!」
そういえば、まだ木之原の手を繋いだままだった。
もうここまでくれば歩いても間に合うだろう。
名残惜しいけど僕は繋いでいた手をそっと離した。
「はぁ……はぁ……」
「ごめん、女の子の走るペースじゃなかったな」
「はぁ……もー、女の子をリードするときはもっとデリケートにしないとダメなんですよ?」
めっ、と言わんばかりに木之原に注意される。
「はは……気をつけるよ」
注意のことよりも、木之原の額から微かに流れる汗の匂いと、女の子独特の甘い匂いが僕の鼻孔を刺激してそれどころではなかった。
「ちょっとそこの自販機で二人分飲み物買ってくるから待ってて!」
「あわわわわ。椎名さん、お構いなくぅ!」
自分を冷静にさせる為に、木之原から一度離れて自販機に向かった。

「……しまった」
格好つけて自販機に向かったはいいけど、貧乏学生な僕にはたかが150円と言えど痛い。
それが2本ともなると尚更痛い。
入れかけた500円玉が止まる。
「……しかしだ!」
男ならここで買わずして、いつ買うんだ!?
可愛い女の子の為に自分の生活を投げ打ってでも出すんじゃないのか!?
後のことは後で決めればいい!
そうやって今まで生きてきたのが椎名修兵という男だ!
「うおおおお! 投入だ!!」
「何してんの、ロリコン」
「うおっ!?」
入れかけた500円玉が投入口には入らず、ちゃりんと音を立てながらコロコロ転がっていき、無情にも溝の中に落ちていった。
「――」
言葉にならない言葉が思わず漏れてしまう。
「買うの? 買わないの? それとも買ってほしいの?」
「か、買ってほしいです!」
そう言った直後にいきなり僕のことをロリコン呼ばわりした少女が僕の財布をふんだくって、千円札を取り出して投入口に入れた。
「――」
じじじと千円札を飲み込む音が聞こえたあと、1000と数字が点滅した。
と思ったらすぐに850と数字を変えて取り出し口からガタンと音が聞こえた。
「小夜、このロリコンが何か奢ってあげるって言ってるけど小夜は何飲む?」
「……私も瑛夏と同じものでいいよ」
「えへへ、小夜ならそう言うと思ったよ~」
「――」
850という数字が700に変わった。
「あれ、あんたまだそこにいたの?」
「……ハッ。ちょ、ちょ、ちょっと待てぇー!!」
しばらく放心状態が続いたが、あんぐり開いた口からようやく魂を呼び戻した。
「……なに? あたしたち急いでいるの」
少女は不機嫌な顔を隠そうともせず悪態ついてきた。
「そういえば、俺もだ。って、ちがーう!! 僕に何か言うことあるだろ!」
「ごちそうさまです」
「どういたしまして。って、それもちがーう!! 小夜、こいつに何か言ってやってくれ!」
「……ごちそうさまでした」
「――」
夏の暑さのせいなのか、この少女たちのせいなのか、どっちにしても頭がくらくらしてきた。

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自己紹介:
倉子かるです。
Xbox360で遊んでいたりします。
紆余曲折しながら書いてます。
ハッピーエンドは嫌いです。
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