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くらしかるあわー
物好きの物好きによる物好きの為の毒電波発信のべる。
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2024/05/07 (Tue) 14:11
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2010/03/24 (Wed) 16:37
 

朗らかな春の風が、河原に背を向けた桜の花弁を群青色の空へと手招いている。
雲一つない優しく、全てを包み込んでくれるようなそんな青空だ。
「どうしたんですの、お兄様?」
気持ちよく空を仰いでいた俺に、不思議そうに思う声色で黒子が尋ねてきた。
……未だにお兄様と呼ばれるのには抵抗があるな。
同じ風紀委員に所属する俺と黒子は言わば先輩後輩の仲だ。
俺の活躍に目を留めて、なかば無理矢理、黒子の第2パートナーにさせられてしまって今に至る。
一応敬意を払ってなのか、俺のことを「お兄様」と呼んでくれるのだが、嬉しいというよりも正直こそばゆい。
「お兄様、黒子の話を聞いていますの? お兄様?」
ぷくーっと、頬を膨らませて拗ねたような表情をつくる黒子。
普段からは想像も出来ない表情だから思わず笑ってしまう。
「な、なにを笑っているんですのっ!」
ゆでだこみたいに赤くして、ふいと黒子は顔を背ける。
こういうところは歳相応というか、黒子も普通の女の子なんだなと再認識するには十分だった。
「ふんっ、わたくしに恥をかかせた罪は重いんですのよ?」
そういった黒子は申し訳ない程度に俺の手をぎゅっと掴む。
その手がひんやりと冷たくて、やわらかくて、内心どきどきしてしまった。
「これくらいのお仕置きは必要でしてよ」
これがお仕置きなら俺はいくらでも受けようじゃないか。
黒子の手を一度ほどいてから、今度は俺のほうからきっちりと手を繋いだ。
あっ、と黒子の驚いた声が聞こえたけど聞こえないふりをした。
もし今が警邏中じゃなかったら、このまま二人で満開の桜の花を見ていたのにな。
「あら、お兄様の肩に桜の花びらがありましてよ。わたくしが取ってあげますの」
いつの間にか気付かないうちに、俺の肩に花びらがついてたらしい。
黒子が繋いでる反対の手で、取ってくれた。
「はい、取れましたの。あ……」
反対の手、つまり黒子は俺のちょうど前に出る形で取ってくれるもんだから、自然と目が合ってしまう。
「お兄様……」
黒子のツインテールが揺れる。
一瞬、風が強く吹いた気がした。
さっきのような頬の赤らめかたとは違う、まるでこのシチュエーションは恋を覚えたばかり少女のそれだ。
やけに早く躍動する心臓の鼓動音は、俺のものなのか、黒子のものなのか分からなかった。
「お兄様……」
黒子はもう一度つぶやく。
目じりに少しだけ涙を浮かべて、上目遣いで俺を見つめて。
「ここでキスして、ほしい……ですの」
精一杯な黒子の言葉。
それが痛いほど胸に伝わってくる。
だから、俺もそんな黒子の言葉と気持ちに精一杯応えようと思う。
まぶたを閉じ、少しだけ背伸びをして、キスを待つ少女に。
爽やかな風が吹いて桜並木が揺れる。
まだまだ散りそうにない満開の桜だけど、時折ぽつりぽつりと風に身を任せて花びらが舞っていく。
そんな、うららかな春の桜木の下で俺たちはやわらかなキスをした。

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