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くらしかるあわー
物好きの物好きによる物好きの為の毒電波発信のべる。
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2024/05/03 (Fri) 09:53
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2010/04/05 (Mon) 14:36
 

「……たのもー!」
「突然ですけどこんにちはー! ロリコンはいますかー!」
一瞬何が起こったのか分からなかった。
時間が止まったような感覚とはこういうものなのか。
「……なにしてんだ、お前ら」
ドアを開けて、勢いよく入ってきたのは小夜と瑛夏の二人だった。
「何って、椎名が財布を忘れたからあたしと小夜で届けにきたんじゃない、感謝するんだ~!」
「……するんだー」
へなへなと木之原がその場に崩れ落ちていく。
「あ、あはは……不安になるだけ損でしたね」
木之原にとっては相当怖かったことだろう。
入ってきたのが僕の知り合いと分かり、安堵から自然と涙が流れていた。
「ったくなんだぜぇ! 瑛夏やんと小夜っちならそうと言ってくれよー!」
「えへへ~! ほら、椎名。財布、ちゃんと届けたからね」
「おう……」
今は財布が戻ってきたことを喜ぶべきなのか、それとも来たのがこの二人だったことを喜ぶべきなのか複雑な気持ちだった。
「椎名、この者どもは?」
「ああ、後輩の秋畠瑛夏と古森小夜だ」
「秋畠瑛夏で~す」
「……古森小夜です」
「ふむ……」
二人の名前を聞いてから、藤林は何故か黙ってしまった。
「どうした藤林?」
「いや……」
なんなんだ、一体。
それから一度藤林は僕たちが入ってきたときに座っていた座席に戻り、何かを考え込んでしまった。
「ところで、お前ら。よく僕がここにいるなんて分かったな」
「お・ん・な・の・か・ん♪」
「キモいな、瑛夏」
「あんですとー!!」
「……夏休みに制服をきて、あの時間帯で学園に向かっているなら、多分補習だと思ったんです」
さすが小夜だ。
どこかの馬鹿よりもよっぽど賢い発言だな。
「というか、椎名。朝一緒にいた先輩泣いてるじゃん、女の子を待たせるだけじゃなく泣かせるなんて最低だよ?」
「お前にだけは言われたくないわ!」
「あわわわわ! わ、私は大丈夫ですので……」
よろよろと立ち上がり、にこりと笑顔をつくる木之原。
「木之原、無理に立ち上がらなくて大丈夫だぞ?」
「いえ、私はもう大丈夫ですっ」
「……椎名先輩、女の子に無理させたー」
「小夜、お前もか……」
うおおおお、僕は無罪だぁぁぁぁ!
なんとなくだけど、冤罪にされた人の気持ちが分かった気がした。
「ところで、後輩たち。ここに来るまでに学生、教師どちらでもいい、誰かに会ったりしなかっただろうか?」
黙って何かを考えていた藤林が、唐突に口を開いた。
「そういえば誰とも会わなかったね、小夜?」
「……神隠しじゃー、神隠しじゃー」
「そうそう、あたしたち神隠しにでもあったんじゃないかなって思ってたから、正直ここに椎名たちがいて嬉しかったりもするんだよね」
えへへ、と照れ隠しをするかのように瑛夏は笑う。
……。
……なんだと。
やっぱり今この学園には僕たち以外誰もいないのか。
そんなことありえるのか。
……いや、ありえない。
「藤林……」
後ろにいる藤林のほうに顔を向けた。
「椎名、驚かないで私の話を聞いてくれ」
「あ、ああ……なんだ?」
「さっき私に「どうした?」と聞いてきたな。それの答えを言おう」
椅子から立ち上がり、僕たちの方に近づいてきた藤林はゆっくりと口を開いた。
「実は、私に伝えてきた者が椎名たち以外にもあと二人来ると言っていた、名前は古森小夜、秋畠瑛夏。つまり、その二人だ」
「なんだよそれ……!」
「じゃ、じゃあさ! 瑛夏やんと小夜っちはりんりんに伝えてきた奴に会ったって可能性もあるんじゃねえの!?」
「誰がりんりんだ、馬鹿者!」
「奈々緒、お前はこう言いたいのか? 小夜と瑛夏はそいつのグルだと」
「べ、別にそこまで飛躍したことを言うわけじゃねえぜぇ! ただ、その可能性もあるって話だぜ!」
小夜と瑛夏に視線が集まる。
「な、なんの話……?」
「……分かんない、そもそも先輩方がそんなにムキになってる理由も分からないです」
嘘を言っているようには思えない。
そもそも小夜と瑛夏は嘘とは無縁の世界の住人だ。
二人が嘘でもついたなら、簡単に分かってしまう。
「そ、そうですよ……! それに、二人は椎名さんの財布を届けにきたからここに来たんであって、もし椎名さんが財布を忘れていなければ二人はきてなかったはずです……皆さん、一度落ち着いてください……!」
声を出して木之原は泣いてしまった。
あたりは木之原の声だけ残して、静まりかえってしまう。
「……先輩方、私たちにも教えていただけませんか?」
「そうだよ、ここまできてあたしたちだけ仲間はずれなんてひどい話だよ~?」
「……それもそうだな、いいだろ、藤林?」
「私は特に異論はない。それにまだ椎名たちにも言ってないこともあったことだしな」

………。
……。
…。

「つまり、椎名たちは騙されてここに呼ばれた。藤林先輩は先日の夜、その謎のXに言われてここにきた。これで大体合ってる?」
「謎のXはおいといて、そんな感じだな」
「ああ、概ね合っている」
説明が終わったところで僕たちは一息ついた。
時計の針を見るとちょうど12時を過ぎたあたりを指している。
「ん~、どう思う、小夜?」
「……少なくとも、もう少し待つ価値はあると思う。どうして学園に人がいないのか、先輩方を呼んだ理由、それに何故私たちがくることを予想できたのか、聞かないといけない気がするしね」
「僕も小夜と同じ意見だ」
「ナナちゃんもだぜぇ!」
奈々緒にしては珍しく乗り気だ。
明日は吹雪でもきそうだな。
「来るのが女と分かれば、ナナちゃんがマウントとってマグナムトライしてやんよぉ!」
前言撤回。
やっぱりこいつはどうしようもないくらい馬鹿なだけだった。
「木之原、さっきはごめんな」
少し後ろにいた木之原に近づいていって、僕は素直に謝った。
あの時は少しムキになりすぎていたかもしれない。
「い、いえっ! みなさんがムキになってしまう気持ちも分かりますし仕方なかったのかもしれません……」
「……」
「それと……」
「ん?」
「私なんかの為に気を掛けていただいてありがとうございます……!」
木之原はこんな状況でもあの木之原のままだ。
それがどれ程凄いことなのか、きっと木之原自身は分からないと思う。
「いや、僕のほうこそ木之原にお礼を言わなくちゃな、ありがとう」
「ほえ?」
どうして感謝されているのか分からず、木之原は首を傾げている。
だけどすぐ笑顔になって僕のほうを見る。
「どうして私が感謝されているのかは分からないですけど、椎名さんの為になったらのなら私も嬉しいです」
本当に純粋で無垢な、綺麗な笑顔だ。
「椎名、木之原、仲睦まじいところ悪いがちょっといいか」
「あわ、あわわわわ!」
な、仲睦まじいっておいおい藤林よ……。
木之原がさっき以上に赤面して俯いてしまってるじゃないか。
「どうした?」
「重大かつ、重要な話だ」
重大で重要……。
生唾が喉を通る音が自分自身から聞こえた気がした。
「……ああ、いつでもいいぞ」
「私は、腹が減った」
「……はい?」
藤林が一体何を言ったのか理解するのには時間が足りなかった。
「だから、私は腹を空かしていると言っているではないか! 女子にこんなことを二度言わせるではない!」
頬を赤く染め、藤林は軽く下に俯いてしまう。
オーケーだ。
例え今謎のXがこの教室に入ってきたとしても、僕は陽気な声で迎えられる気がする。
むしろ今来てほしい。
そう、今ならどんなことにだって満面の笑みで応えられるだろう。
「藤林」
「どうした、椎名?」
「ぜひ、君もFool2に入って今度から僕たちFool3と名乗ろうではないか。いや、名乗るべき。絶対名乗ろう」
「き……」
「き?」
「き、貴様は私を侮辱してるつもりかぁぁぁー!!」
「ぎゃあぁぁぁーー!!」
「ひぃぃぃー!!」
三人分の悲鳴が聞こえた気がしたが、それが現実なのか夢なのか、薄れゆく意識の中で僕は認識できるはずがなかった。

………。
……。
…。

「はっ!」
今日何度目かの目覚めのような気がする。
「修兵ちゃーん、南無ぅ……」
「まだ死んでねえよ!」
身体全身痛いが、どうして痛いのかは気にしたら負けだと思う。
しかし、頭の後ろあたりにとてもやわらくて、甘くいい匂いがするものが当たってる気がする。
「あ、椎名さん! ようやく目が覚めましたか」
声のするほうを見ると木之原の顔が間近にあった。
……え?
なんなんだ、この状況。
「椎名みたいな犯罪予備軍には勿体ない光景ね」
「……ひざまくらーは恋の味ー」
ひざまくら?
「ふぁ……んっ、や、あんっ! し、椎名さん、くすぐったいです……」
やわらかな何かの上でごろごろと頭を動かしてみると、真上から甘い声が聞こえてきた。
「椎名、いつまでそこで寝ている……?」
「あ、あぁぁぁーー!」
急いで立ち上がり、木之原のほうを向いた。
頬をかすかに赤らめ、木之原はとろんとした目つきで小さく息を整えている。
つまり、僕は木之原の膝の上で寝ていたのか!?
「ご、ごめん! 木之原!」
「い、いえ! 大丈夫です! ……むしろ、私はありがとうございますと言いたいです」
最後のほうがよく聞こえなかったけれど、くそ、木之原に迷惑かけてしまったな……。
「……ったく。ほら、食堂にいくぞ、私は腹を空かせていると何度言えば分かるのだ」
「は、はいぃ!」
藤林を筆頭に僕たちは学食に向かった。
それにしても木之原、やわらかくていい匂いだったな……。

………。
……。
…。

杜林学園学生食堂。
全国の有名飲食店が提供していたり、一般開放されていたりと、日本をみてもこれだけ大きな学食はここだけだと思う。
その珍しさから他県から来る人や、リピーターになる人も多い。
お昼時は1500人以上いるときもある。
今は閑散としているが……。
「やっぱり、ここにも誰もいないか」
苦々しく藤林は呟く。
今お前が言っても、いつもの学食が食べれなく、その悔しさで言ってるように聞こえるのは気のせいだろうか。
「いや、藤林。あそこに誰かいるぞ」
遠くのほうでちんまりと一人座っている学生が居る。
「なあ、椎名ちゃーん。あれが謎のXって可能性あんじゃねぇ?」
確かに奈々緒の言うとおり、座っている学生は女だ。
「藤林、昨日会った奴はあんな感じなのか」
「ちょうど街灯がない場所にいたものでな、容姿については詳しくは分からなかったんだ。ただ、ここの学園の制服を着ていたから、学生であることは間違いない」
「めんどくせぇぜ! ナナちゃんが行ってきてやんよぉ!」
そう言った矢先奈々緒はすぐさま女学生のもとに走っていった。
「ナナ先輩、逆にマウント取られなきゃいいね」
「……1、2,3、かんかんかーん」
「あの……あまり冗談になってない気がします……」
ああ、改めて奈々緒に対するみんなの評価の声が分かった気がした。
仕方ない、相手は女学生とは言え奈々緒一人だと何しでかすか分からないから僕もいくか。
「僕もちょっと奈々緒のところに行ってくる、三人はここで待っていてくれ」
「椎名」
「ん?」
「こんな状況だ、まず普通の学生とは考えにくい。気をつけろよ」
女の子相手にそこまで気にする必要もない気がしたが、藤林が心配してくれたことには素直に嬉しかった。
「ああ、ありがとう」
それから僕も奈々緒に続いて、女の子のもとに走った。
「あれあれ、修兵ちゃーん!! 女の子だからってすぐ節操なしに向かっていたらどこぞのエロゲーみたいに修兵死ねって言われるぜぇ!!」
「奈々緒」
「はいよ!!」
「死ね」
「あわびっ!」
そんな馬鹿なことをしていたら、女の子のところに着いていた。
ずるずると音を立てカップ焼きそばを食べている。
なんか、変な光景だな。
「へいへーい!! 君がもしかして謎のXかーい!?」
奈々緒の方を見向きもしないで、相変わらず食事のほうに没頭している。
「(……修兵ちゃん、なんかこいつおかしくねぇ?)」
小声で奈々緒が呟いてきた。
「(お前は無視されたくらいで、簡単に人を決め付けるな)」
「(ちぇー)」
「な、なあ」
「……カップ焼きそばは焼いてもいないのにどうして焼きそばなんだろう?」
「は?」
思わず間抜けな声が漏れてしまう。
「いや、だから焼いてないでしょ? これはどちらかというとカップゆでそばなんじゃないかと私は思う」
「……」
どうしよう、電波ちゃんなのか。
奈々緒の方をみても、修兵ちゃんに任せるぜー!みたいな強い目線を感じる。
くそ、こいつは……。
「あー……つまり、カップ焼きそばは「カップ焼きそば」という商品名で、出来上がりの形状も焼きそばに似ているからカップ焼きそばなんじゃないのか」
「なるほどね」
どうして僕はカップ焼きそばの説明なんかしているんだ……。
それにこの学生、せっかく説明してあげたのにどうでもいいような顔してるじゃねえか。
「さて、本題に入りましょう」
「唇に青海苔ついてるぞ」
「おっと、失礼」
ハンカチを取り出して、上品そうにふき取る。
食べていたのがカップ焼きそばじゃなかったら実に決まっていたのにな。
「取れた?」
「ああ」
「にへへ」
何が楽しいのか、女の子は笑う。
なんなんだよ……。
今日何度使ったことか分からない言葉がもう一つカウントされる。
「ようこそ」
ダンスでも踊るかのように華麗なステップでくるりと彼女は回る。
風に髪をたなびかせ、ともに踊る。
スカートに隠していた2丁の銃を僕たちに突きつける形に構え、その仕草が様になっていて、綺麗で、見蕩れてしまう。
「セカイの隅へ、あなたを頼りに、弾丸にのせて」


グノシェンヌ 序章 セカイの隅で

Next chapter!

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倉子かる
性別:
非公開
趣味:
毒書
自己紹介:
倉子かるです。
Xbox360で遊んでいたりします。
紆余曲折しながら書いてます。
ハッピーエンドは嫌いです。
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