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くらしかるあわー
物好きの物好きによる物好きの為の毒電波発信のべる。
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2024/05/03 (Fri) 01:31
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2010/04/01 (Thu) 14:11
 

社林学園。
ここ社林市の全ての学生がここに通っているもんだから校舎、敷地面識共々かなりの大きさになってる。
そんなもんだから、下手に迷い込んででもしたら生きて帰れないかもしれない。
……というのはちょっと大げさすぎるか。
しかし、学生の間ではちょっとした怪談話もあったりする。
年に数人の学生が学園内で行方不明になって、その後の消息も当然不明。
それはまるで神隠しにでもあったのかのように。
まあ、こんな大きな学園なんだし怪談話の一つや二つあってもおかしくないと思うけどね。
「はぁ……はぁ……やっと、はぁ……着きましたぁ……」
「はぁ……お疲れさま、木之原」
いまだ息があがってる木之原にさっき小夜にもらったお茶を渡した。
「ほら、木之原さん。これ、飲むといいよ」
「はぁ……はぁ……え、あ、その……ありがとうございますっ」
ああ、お茶を飲む姿も可愛いな。
お茶か……そういえば、何か忘れているような。
「あ、あの……椎名さんはよろしかったのですか?」
「――!」
思い出した。
そうだ、あの時瑛夏から渡されたものも、今木之原が飲んでいるお茶も元はといえば僕のお金で買ったものじゃないか。
さ、財布は!?
「……」
背筋が凍りつく思いだ。
今流れている汗が暑さからくる汗なのか、それとも財布がないことで流してる冷や汗なのか分からない。
どっちにしても、今日から僕は水と塩の生活になるだろうということは確定的に明らかであると言うことだけだ。
「あ、あはは、あはははは……!」
「し、椎名さんが暑さで壊れました……」
「いやー、木之原さん。今日はナツいねー!」
「ナツい?」
今頃高笑いしてる瑛夏の姿が目に浮かぶ。
くそう、今度会ったときにその無い乳掴んでヒィーヒィーよがらせてやる。
「あの……椎名さん」
「ん? なに、木之原さん?」
「もしよろしければ、これ、どうぞ」
さっき渡したお茶を木之原は渡してきた。
おお、なんという聖女。
この慈愛に満ちたような笑顔は間違いなく、聖女の輝き。
木之原のせっかくの好意に甘えて、僕は受け取ることにした。
「さんきゅ、木之原さん」
「い、いえ! 私、椎名さんのお役に立てて嬉しいです……」
受け取ったお茶を飲みながら、街の喧騒に耳を傾けた。
車の走る音、楽しげに笑う人の声、煩わしさもあるけどどこか心地よい蝉の鳴き声。
いつもと変わらないそんな日常の景色。
僕たちを包む時間はゆるやかに進むけれど、この街は時間に流されず変化をしらない。
それはきっと、いいことなんだと思う。
変化を求めすぎれば、いつか変化に追いつけなくなるときがくる。
「今日は、いい日ですね」
木之原の口からそんな言葉が漏れた。
きっと木之原も同じようなことを考えていたんだろう。
「おうおうおう、お二人さーん! 朝からイチャラヴしてるところをわざわざ校門前でお披露めたぁアツイねぇ! アツ過ぎてナナちゃん妬けて焼けて溶けちゃいそうだぜぇ!」
こんな邪魔さえ入らなければ、な。
「……なんだ、奈々緒」
「へいへーい!! マヴでラヴなダチちゃんに向かってなんだとはヒドいんじゃないですかぁ!」
「……おはようございます、広瀬くん」
「おや! おやや! 修兵ちゃんと一緒といるのは、かの学園のアイドル桜子ちゃんじゃないですかぁ! 相変わらずいいおっぱいしてるねぇ!」
「奈々緒、木之原さんが引いてるからやめとけ……」
いつの間にか僕の制服の裾をぎゅっと掴み、木之原は後ろに隠れてしまった。
おいおい、木之原。
そんなことしたら、火に油を注ぐようなことだぞ……。
「うひー!! お二人さん、どこまでも魅せつけてくれるねくれるねくれますねぇ!! なになに、もうマグナムトライしちゃったワケですかぁ!?」
「……奈々緒」
「なんだい、ダチちゃん!」
「死ね」
「あわびっ!」
右ストレートが綺麗に入り、奈々緒は地面にひれ伏した。
「……ったく」
広瀬奈々緒。
女みたいな名前に負けず劣らず、その容姿も女の子以上に女の子な男だ。
おっぱいは……いや、やめておこう、吐き気がする。
男からみても可愛いと思う外見とは裏腹に性格は最悪。
口が悪い、空気を読まない、下ネタ大好き。
三悪をきっちりと兼ね揃えてるような手の施しようがない馬鹿だ。
最初会った頃はもっと大勢友達がいたみたいだが、いつの間にか僕だけがこいつの側にいる。
つまり、貧乏くじを引かされたのが僕だと言うわけだ。
「ちょいちょい修兵ちゃん、ナナちゃんの可愛らしい顔を殴るなんてひどいんじゃあないのぉ?」
「うるさい、当然の報いだと思え。それと、自分で可愛らしいとか言うな、気持ち悪い」
「いっひっひー! ナナちゃんマジでショックだぜぇ!」
「椎名さん……いこ」
木之原は相変わらず僕の後ろに隠れていたが、奈々緒に嫌気が差したのか、裾をくいくいっとひっぱり急かしてきた。
確かにここで奈々緒に構ってる暇なんてないな……。
「悪いな、奈々緒。僕たちこれから補習を受けなくちゃいけなくてお前に構ってる時間すら惜しいんだ」
「それなら急ごうぜぇ! 必然か偶然か、ナナちゃんもかったるい補習受けにきたんだぜ!」
ああ、そうか、忘れてた。
馬鹿は馬鹿でも、奈々緒は普通に馬鹿だったんだ。
「お前の場合当然だろ」
「んなっ! 椎名ちゃんひどいっ!」
「ふふっ」

………。
……。
…。

学園内は閑散としていた。
いや、一部歩く騒音人間奈々緒という例外はいるが。
夏休みという期間だから、閑散としてるのは当たり前といえば当たり前なんだが……。
それにしても静か過ぎる。
普通これだけ大きな学園なんだ、学生や職員の一人や二人見かけてもいいはずなのに、ここにくるまで誰一人として会っていない。
そういえば、いつも校庭で部活動をしている野球部の声も聞こえない。
なんなんだ、この状況は。
これじゃまるで、僕たちが神隠しにあったみたいじゃないか。
……はは、考えすぎか。
逆に考えてみれば、これだけ大きな学園なんだから会わなくても当然とも言える。
野球部だって今日は偶然休みなのかもしれないしな。
……本当に?
「今日はなんだか、人がいないみたいですね……」
木之原も同じことを考えてたみたいだ。
「なんだよー! せっかくナナちゃんが真面目に補修を受けにきたというのにこのお出迎えはひどいぜぇ!」
「お前がきたから、このお出迎えなのかもな」
「いっひっひー! 有りえるありえるありえるねぇ! 可愛らしいナナちゃんが着たからみんな恥ずかしがって出てこられないのかなぁ!?」
「奈々緒、うるさい」
「しゅーん」
この静けさは少し不気味だ。
人がいないだけでこうも変わってしまうのか。
僕たちの歩く音だけが廊下中に響き渡る。
「なんか、ちょっと変じゃね?」
さすがの奈々緒もこの異常な事態にとまどいを感じ始めていた。
「私も……おかしいと思います」
「とりあえず、教室まで行こう。僕たちの他に補習で着ている人がいるかもしれない」
「はい……」
手に冷たい何かを感じた。
「あっ……ごめんなさい! イヤでしたら、すぐ放します……」
「いや、大丈夫だよ」
木之原が僕の手を握ってきた。
こんな異常な状況じゃ怖くなるのも当然かもしれない。
「なあ、修兵ちゃん。ナナちゃんも手握ってもいい!?」
「あいにくだが、僕は「はい、いいですよ」と二つ返事で優しく男の手を握るみたいな変態的趣向は持ち合わせていねえよ!」
「ちぇー!!」
「ふふ……お二人、仲いいんですね」
木之原に目にはそう映っていたのか!?
これは今後奈々緒との間合いを考え直さねばいけないな。
「ナナちゃんと修兵くんは童貞と処女を捨てあった仲だから……」
「ちげえよ! お前はよくもそう女子に向かって口軽々と下ネタを言えるな!」
頬を赤らめ、微かに涙を浮かべながらいかにも本当のことですみたいな感じに言うな。
ほら、見ろ。
木之原が引いて……。
「木之原さん?」
「……」
木之原が小さく呟いているが、何て言ってるんだ。
「木之原さん。おーい、木之原さん」
「わあっ! ななななんでしょう、椎名さん!?」
「いや、なんでもないんだけど、急にどうしたの?」
「へ? あ、あれ? 私、何か言ってました?」
「ん、分からないならいいんだ」
一体なんだったんだろうか。
単純に僕の気のせいかもしれないけど、それにしても一瞬いつもの木之原ではなくなった気がした。
「ほら、二人とも着いたぜぇ!」
奈々緒の声で気がついた。
いつの間にか僕たちは教室の前まで来ていたのか。
「誰かいるといいんですけど……」
「居なかったらナナちゃん泣いちゃうぜぇ?」
「奈々緒、うるさい。それじゃ、ドアを開けるぞ」
そうして、僕はゆっくりと、ドアを開けた。

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自己紹介:
倉子かるです。
Xbox360で遊んでいたりします。
紆余曲折しながら書いてます。
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