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くらしかるあわー
物好きの物好きによる物好きの為の毒電波発信のべる。
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2024/05/06 (Mon) 03:17
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2010/03/23 (Tue) 00:36
 

「小夜、もうすぐ屋上だよ!」
あれほど長く感じた階段の終わりが近づいている。
気付かないうちにそんなにも上っていたんだ。
階段の終わりは、暗闇の終わり。
また眩しいくらいに街の明かりが私たちを照らす。
階段の終わりは、私たちのはじめての共同作業の終わり。
だけど、終わりがあれば始まりのはじまり。
これからも瑛夏と新しい始まりを迎えたいな。
「……うんっ」
自然と、握っていた手にぎゅっと力が入った。

扉の向こうは、相変わらずの雪景色が続いていた。
光が反射して、暗闇に慣れたせいで少し眩しい。
「や~っと着いた!」
「……ほんと、やっとね」
ようやく屋上には着いたけれど、やっぱりそこに何かあるはずがなかった。
瑛夏と迎えられた達成感。
それだけで、私には十分過ぎるけどね。
「ずいぶんと高いところまで来たんだね、あたしたち」
確かに他のビルとかと比べてみると群を抜いた高さだった。
だから、仙台の街並みを一望できた。
ここが完成されたら、きっと私たちみたいな子どもはもう入れないんだろうな。
瑛夏とこの景色を見ることもきっとこれが最後。
私は忘れないように目に焼き付けた。
この日を、瑛夏と過ごしたこの思い出を。
「あ! あそこにシートがあるね」
「……置忘れかしらね」
「えへへ、ちょっと借りちゃお~!」
シートに積もった雪を手で払い、私たちはシートの上で寝転がった。
暗闇の空は、吸い込まれそうな恐怖と少しの安堵があった。
雪が降る音と瑛夏の吐息の音だけが静かに聞こえてきて、いつもの街の喧騒は聞こえない。
まるで、世界には私と瑛夏の二人しかいないような錯覚を覚えた。
「こうやって手を上していたら、いつか何かを掴めそうな、そんな気がしない?」
瑛夏は空いてる片方の手を空へと伸ばし、その視線は何かを見据えたような感じだった。
「……掴めるなら、そうね、神さまの手なんかどうかしら?」
「それはダメだよ~。あたしが掴むのは小夜の手なんだから、神さまの手はおことわりっ!」
「あはは……なら、瑛夏は何を掴みたいの?」
「あたし? あたしは……過去、未来、そして何よりも……現在を掴みたい」
瑛夏の声が急に変わった気がした。
そう、あの時御咲まなかと藍澤樹に会ったときのように。
「現在を掴む?」
「うん、現在を」
「……それってどういう意味なの?」
「覚えてないんだね……ううん、覚えてるわけがないって言ったほうがいっか」
「瑛夏……?」
瑛夏が何を言っているのか意味が分からなかった。
ただ、これ以上先のことは聞きたくないということだけは分かる気がする。
「もうそろそろ「この世界」も終わりだから、「この小夜」には伝えなくちゃね」
「この世界? この小夜? 瑛夏……何言ってるのか、私分からないよ」
「分からなくて当然だよ、小夜。この世界がループしてるなんて、小夜は気付いてないんだから……」
「……ループ?」
「小夜、今日が何月の何日か、どうして街に出てきたのか覚えてる?」
今日なんてすぐに……え、あれ、思い出せない。
確か朝の時点では分かったのになんで。
私が街に出てきた理由?
そもそも私はいつ家を出たの?
「……やっぱり思い出せないんだね。何十、何百回とループを繰り返したら仕方ないよ」
目の前にいる少女が途端に怖くなってきて、手を離そうと思ったけど、少女はそれを許さなかった。
「小夜、逃げないで。あたしの話を聞いて」
「い、いやっ……」
「小夜が今日街に出てきた理由は自殺する為。本当はこのあと、小夜は自殺する」
「じさ、じ、自殺……?」
「そう、それにそれは逃れられないことだったの。小夜がここから自殺したあとに新しい世界が構築される、それがこのループ世界のルール」
「あ、あはは……なによ、それ」
もうなんだか馬鹿馬鹿しく思えてきて、笑ってしまう。
自殺、新しい世界、ループ?
何なのよ、それ。
「小夜っ! お願いだから……お願いだから、あたしの話を聞いて……」
少女は泣く。
でも、私には関係ない。
どうせ少女が言う、この世界が終わったらこの涙もこの少女も忘れるから。
大粒の涙を流して少女は泣く。
堪えきれないのか、声を上げて私の名前を呼んで、泣く。
私には……私には関係ない。
どうせ少女が言う、ループする世界なら、この涙も、大好きなこの少女も忘れるから。
少女は泣く。
私は……本当にそれでいいの?
「……なんで、なんで瑛夏は私のことが分かるの?」
「あたしは、この世界にはいなかった。けど、ある日突然このループの世界に迷い込んだ。ううん、迷い込んだんじゃない、小夜、あなたに呼ばれたんだと思う。知ってる? あたし達、ずっと昔から知り合いなんだよ。親友だったんだよ」
「――っ」
「小夜に呼ばれたあたしはきっとこの世界のイレギュラーな存在だったんだと思う。ループの影響は受けるけど、記憶までは影響を受けなかったの。でも、イレギュラーなあたしは小夜に近づくことは出来なかった」
「じゃあ、今こうして話してる瑛夏は……」
「きっとこの世界に侵されつつあるんだと思う、もう記憶も引き継げないかもしれない」
「そ、そんな……!」
「そうなったら、あたしたちはもう会わないかもしれない。会ったとしても、もう他人同士で、これからもループの世界を延々と続けることになると思う」
「いやっ……そんなの、そんなこと……いや……」
「あたしだっていやだよ! 小夜のこと忘れるなんて……辛いよ」
「どうすれば、どうすればこのループは終わるの……?」
ほら、また私は瑛夏にひどい言葉を求めてる。
きっと分かるはずがない言葉を。
だって、そうじゃなきゃ私が壊れそうで、辛くて。
瑛夏も同じ気持ちなのにね。
ごめん、ごめんね、瑛夏。
「分かんない、分かんないよ! あたしだって、こんなことはじめてだから……」
「ごめん……瑛夏にばっかり辛い言葉を求めて」
「小夜……」
ふいに、声が聞こえた。
私でも、瑛夏の声でもない声が。
「ふええん、ふええん。いっちゃん、女の子の涙には弱いのですぅ」
「あんただって女だろうが……」
「てへっ☆」
御咲まなかと藍澤樹だ。
どうしてこんなところにいるの。
「御咲……まなか!」
瑛夏が私を庇うように、前に出た。
「いっちゃんもいるのに、ムシとはひどいでーすぅ!」
「どうして……ここにいるの?」
「どうして? それはあんたが一番知ってるんじゃないの?」
何がおかしいのか、御咲まなかと藍澤樹はくすくすと笑い声をあげる。
どういうことなの……?
「まだそこのお姫さまは理解してないみたいだから、教えてあげたらどうなの? 可愛らしい王子さま」
「瑛夏……」
「さっきここからの自殺で新しい世界が構築されるって言ったよね。でも、本当は自殺だけじゃない。「他殺」も含まれるの」
「それって……」
「はいはーい! いっちゃんたちが古森さんをころころしちゃうのもオッケーなーのでーす! 条件はいたってかーんたん! この場所から自殺と見せかけるだけ! ね、誰でもできるかんたんおっしごと☆」
「――っ!」
つまり、私は自殺以外にも、ここからあの二人に殺されてたりしていた……?
だけど、瑛夏は私に気を使って、あえてそのことは言わなかった。
瑛夏……ごめん、ごめんね、瑛夏にだけ辛い思いをさせて、ごめんね。
「ま、そういうこと。理解した、古森さん?」
「……」
「そーれにしても、えーかがこの場所に連れてきてくれるなんて、らっきーだったのでーすぅ」
「それは……」
「本当はあんたも古森さんを殺してみたかったとか? ふふっ、傑作ね」
「違う! あたしは……あたしは賭けてみたの。イレギュラーなあたしがこうして小夜に近づけたなら、この場所でループを終わらせることが出来るんじゃないかって……」
「それは残念ね、何も起こらなくて」
また、二人は笑う。
今度は下品に大声をあげて。
瑛夏は震えていた。
力強く噛んだ下唇から、血が出ている。
それほど、瑛夏はループが終わる奇跡をこの場所に賭けていたんだ。
「……笑うな」
「あ?」
「瑛夏のこと、笑うな!!」
自然と声が出た。
自分でも驚くほど大きな声が。
許せなかった。
瑛夏を侮辱した笑いが許せなくて、二人を殺してやりたいと思うほどに。
「ふふ、怖い怖い。普段キレない人が切れると怖いって言うのは本当ね」
「小夜……」
「古森さーん、こわーい。こわいから、さっさと殺しちゃおう」
不気味に笑う藍澤樹の手には何かが握られていた。
あまりに不釣合い過ぎて、何かの冗談だと思えた。
だけど、藍澤樹の表情からは冗談なんてものは伺えなくて、無機質に光るその何かが銃なんだと理解するには十分過ぎるくらいだった。
「安全装置なーんてこの銃には付いてないから、いつでも撃てちゃうーんだよ」
「樹、いい加減その時代遅れの銃はなんとかならないの……?」
「えー? いっちゃんは好きなのにーなぁ」
なんで。
ここは日本でしょ、どうして私たちと同じ子どもが銃を持てるの。
そもそも、どうして銃なんかがあるの。
「瑛夏……」
「小夜、落ち着いて聞いて。このままだとあたし達は間違いなく二人に殺されて死ぬ」
「じゃあどうすれば!」
「あたしが時間を稼ぐから、その隙に逃げて」
「そんなのいや!」
「お願いだから、あたしの言うことを聞いて。最後の言うことくらい……聞いて」
「最後なんて……言わないで」
「そーだんごとはだーめですよっ!」
空を切る音が、屋上に、私たちを無情に引き裂く。
一瞬何の音か分からなかった。
だけど、瑛夏から流れる血が見えて、それが藍澤樹が手に持つ銃が撃たれた音だったとはっきりと理解した。
「小夜っ!! 走って!!」
次の瞬間、流れる血も気にせず瑛夏は制服に隠していた自分の銃を取り、二人に向かって撃ち始めた。
「小夜!! こんなことが続いていいの!? きっと今がループを終わらせる最後のチャンスなんだよ!!」
「私は……」
「小夜!!」
「ごめん! 瑛夏!! 迎えにくるから、だから、だから……」
この先の言葉は口に出せなかった。
死なないで、なんて言えなかった。
「おっと、逃がすわけにはいかないよ、古森さん……っ!?」
私の前に御咲まなかが立ちはだかる。
しかし、一瞬気が散ったのを私は見逃さなかった。
「小夜の邪魔をするなっ!!」
御咲まなかを突き飛ばして、私は入ってきたドアを蹴り飛ばすように開けて階段を駆け下りた。
私は振り向かない。
振り向いたら、瑛夏の気持ちを踏み躙る気がして、私もきっと留まる気がして、一気に駆け下りた。

「よかった……行けたんだね。あとは、小夜次第だよ」
最初に撃たれた一発が致命傷だったのか、あたしの口からも血が流れ出てきた。
意識が朦朧とする。
目の前が真っ白でよく見えないや。
「えへへ、あたしはもうダメみたい。お別れの言葉言えなかったなぁ……さよなら、小夜ならきっと大丈夫、この悪夢を終わらせることが出来るよ」
「そーれがさいごの言葉でーすぅ?」
「――っ!」

頭上でまた何度か発砲音が聞こえた。
「瑛夏……瑛夏……」
涙が次から次へと溢れてくる。
私は無力だ。
どうしようも、どうすることもできない無力でただの子どもだ。
もっと早く分かっていれば、何か変えられていただろうか。
瑛夏に相談されていたら、私は今を変えられていただろうか。
「出来ないよ……私一人じゃどうすることもできないよ……瑛夏……」
「生きることは楽しいこと?」
「秋畠瑛夏。あたしの名前」
「小夜ね、うん、覚えたよ」
「さすが小夜! 友達想いだね!」
「うん……分かった」
「今日、あたしたちが会ってから一度も小夜は笑ってなかったからね。うんうん、やっぱり人は笑顔が一番だね!」
「……あたしの友達に何してるの」
「神さまっていると思う?」
「いつか、ここを誰かと手を繋いで歩きたいなんて密かに思ってたんだけど、それが小夜でよかったっ!」
「涙って悲しいときにだけ流れるんじゃない、幸せだから流せる涙もあるんだよ」
「小夜!!」
瑛夏は一体どんな気持ちだったんだろう。
自分一人だけが事の全てを知っていて、それでも知らないふりをしていて。
きっと、瑛夏も怖かったんだと想う。
だから、知らないふりをあの場所にくるまで突き通した。
でも、どこかで私が気付いてくれるかもしれないと思って、少しだけ言葉に意味を持たせて。
そんな、そんな……瑛夏の優しくて、自分を傷つける言葉、気持ち。
「馬鹿だよ……本当に、馬鹿だよ……」
なによりも、気付けなかった自分が一番情けなくて、惨くて、馬鹿だ。
もうすぐ階段の終わり、二人で入ってきたのに今は私一人。
それがどれほど、どんな事よりも、辛い。
最後に一度だけ、私は瑛夏が待つ屋上に向かって振り返った。
戻ってくるから、だから……死なないで待っていて。
いつもみたいにえへへって笑って、私を迎えてね。
瑛夏……。

街から人が居なくなってる。
これってループ世界にエラーが起きたから?
私が生きているというエラーのせいなの……?
分からない。
分からないけど、走り続けるしかなかった。
静まり返った交差点は異様な光景だった。
いつもはどんな時間であれ、人がそこにいたのに。
今は一人ぼっちだ。
「やっと……見つけた」
「――っ!?」
その声が聞こえたほうを振り返ると御咲まなかが銃を構え、私を狙っていた。
服の至るところに血が染み付いていて、それが御咲まなかのものなのか判断するのは難しかった。
「瑛夏は!?」
「あんた、人のことを心配してる余裕なんてあるの? あぁ、そういえばあいつも最後まであんたのこと心配してたっけ」
「そん……な」
身体の力が自然と抜けていった。
手足が震え出して、がちがちと歯がかみ合わない。
「けほっ、がはっ! はぁ……はぁ。ったく……樹の馬鹿が、最初にきちんと殺してなかったから、私までこんなザマじゃない」
これで、本当に一人だ。
もう、生きている理由、無くなったね。
「さよなら、古森さん。最後に何か言いたいことある? 無いよね、あんたが死ねば最後なんてこないから」
そうだ、私が死ねば瑛夏は甦る。
他人同士になっても、瑛夏が生きているなら私は死ぬことなんて怖くない。
それが瑛夏の為にできる、私の唯一のことだから。
「それじゃ、死ね」
「ごめんね、瑛夏……」

「死ぬのはあんたよ」

音が響き渡る。
何度も、何度も。
やがて、音が聞こえなくなった。
「覚えておくといいよ、死亡確認するまでは油断しちゃダメだって」
「な……んで」
「続きは来世にでもやりましょう、あたしは願い下げだけど」
御咲まどかが倒れる。
その奥に……瑛夏の姿があった。
「瑛夏!!」
「えへへ。やっほ~、小夜」
笑う瑛夏の姿は、直視できない程に酷く、傷ついていた。
倒れそうな瑛夏のもとに、私は走った。
また会えたことの嬉し涙なのか、見るに堪えない姿に悲しんでの涙なのか、もう分からなかった。
「小夜、あたしたち勝ったのかな、この悪夢を壊せたのかな……」
「瑛夏、喋っちゃダメ!!」
「えへへ、泣かないで小夜。人は笑顔が一番なんだよ……」
ひゅーひゅーと空気が抜けるような音が瑛夏から聞こえてきた。
「あーもー……本当に何も見えなくなってきちゃった、小夜の顔、きちんと最後に見ておきたかったのになぁ……」
「そんなこと言わないで! 言わないでよ……」
「ねえ、小夜」
「……うん?」
「来世でも一緒になろうね」
「あ、当たり前じゃない! 私が……私が瑛夏のこと離さないんだから!」
「えへへ……嬉しいなぁ」
瑛夏の瞳から涙が流れてきた。
それがあまりに綺麗で、赤くて、私は見惚れてしまった。
「ねえ、小夜。キスしよっか」
「……うん」
触れるだけのような優しいキス。
その一瞬が永遠のように思えた。
「……おやすみ、瑛夏」
それから瑛夏は静かに眠りについた。
その顔は、とても幸せに満ちた瑛夏らしい笑顔だった。
瑛夏の眠りを妨げるように、遠くの方で轟音が鳴り響き、地面が揺れる。
この世界の終わりの時が、近い。
私は、最後まで瑛夏に付き添おう。
それが私が本当にできる、最後の、瑛夏の為だから。
来世があったら、何をしよう。
瑛夏の為にもっと明るくなって、瑛夏の為に女の子らしくして、瑛夏と一緒に……普通の女の子がしたいな。
あはは、ぜーんぶ瑛夏の為ね。
それでも、私はいいかな。
轟音はますます響き、地面がさらに強く揺れる。
どこかの建物が崩れる音が聞こえてきた。
直にここも危険になるだろう。
それでも、瑛夏と一緒なら何も怖くない。
怖いのは、一人になることだけ。
瑛夏の手を握って、寝転がり空を仰いだ。
雪は降り止むことを知らない。
いつまでも、いつまでも降り続く。
目を閉じて、耳を澄ます。
そうすれば、静かに降る雪の音が聞こえそうな気がしたから。
さよなら、こんな世界に。
さよなら、この私に。
さよなら、大好きな瑛夏に。

やがて白い光が私たちを照らし、優しく包み込んでくれた。

拍手

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倉子かる
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趣味:
毒書
自己紹介:
倉子かるです。
Xbox360で遊んでいたりします。
紆余曲折しながら書いてます。
ハッピーエンドは嫌いです。
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