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くらしかるあわー
物好きの物好きによる物好きの為の毒電波発信のべる。
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2024/05/05 (Sun) 21:48
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2010/03/20 (Sat) 12:12
 

もっと前から瑛夏に出会えてたなら、私の人生ももっと変わっていたのかな。
歳相応に人生を謳歌して、人を拒絶しないで、明るみに満ちた世界。
瑛夏って少しうるさいところもあるけど、心が優しくて、いっぱい友達いそうだもんね。
私とは正反対をいく、幸せな世界なのかもしれない。
そんな世界は、きっと楽しいだろうな。
変われるかな、私は、本当の意味で。
ううん、変わらなくちゃ。
星もない、ちっぽけで小さな夜に私は淡い期待を寄せた。
たとえそれが「無理なこと」だと分かっていても。

いつの間にか人通りから外れ、瑛夏と私はどこかの狭い通路を歩いていた。
ちょうど真上から電車の過ぎ去る音が、轟音のように耳を刺激してきた。
「ねえ、小夜」
「……なに?」
「神さまっていると思う?」
唐突に瑛夏はそんな話を振ってきた。
最初はあまりに突飛な話だったから茶化そうと思ったけど、瑛夏は冗談で聞いてるような感じではなかった。
まるで、本当に神の存在を信じていて、それを私に問うかのように。
「……居るとすれば、神さまは人類を平等なんかには作ってはないわね。誰かを幸せにしたら、違う誰かを不幸せにする。そうやって世界の均衡を保っているんだと思う」
「小夜は……自分がどっちだと考えてる?」
「……私は、私は今までも、そしてこれからもきっと不幸せの道を歩かされるんだと思う。けど、幸せ不幸せなんてちょっとの見方を変えれば、どっちにもなるんだよね」
「見方を変えれば……?」
「自分の眼で見たものだけが不幸せとは限らない。他人から見たら、それが羨ましがる程幸せだったりするかもしれないしね」
瑛夏はしばらく驚いた表情で私を見ていたけど、すぐに、えへへと楽しそうに笑った。
「小夜、変わったね」
「……私が?」
「うん、す~っごく、変わった!」
私が変わったことで、瑛夏が笑顔になるなら私はもっと変わろうと思う。
だって、それが不幸せの中で見つけた私の幸せの見方だから。
「……変わったとすれば、瑛夏のおかげだよ」
丁度、上の方で再び電車が過ぎ、轟音がまた通路の中に響いた。
「ん、何か言った~?」
瑛夏の為なら私は……。
「……ううん、なんでもない。そういえば、話がズレちゃったけど、神さまはいると思うよ」
「ほえ~。小夜ならいないって言うと思ったんだけどなぁ」
「……勝手に決めないの」
「えへへ~」
瑛夏は何故、私にそんなことを聞いてきたのか。
その理由を聞くことはしなかった。
もうすぐで通路の出口だ。
また、仙台の夜の闇と優しい明かりが私たちを包み込む。

雪はまだ降り続く。
そんなすぐに止むとは思ってないけど。
今日はずっと降るのかな。
……どうでもいいや。
今は瑛夏と一緒にいる、それだけで十分。
「小夜。ここの通りの名前、何ていうか知ってる?」
期待に満ちた顔で、瑛夏は私の答えを待っている。
ここの通りは……。
今朝私がいた場所、初恋通りだ。
あの時点では無縁の場所なんて言ってたけど、今はこうして瑛夏と私二人で歩いてる。
……って、ええ!?
「……は、初恋通り……でしょ?」
「ぴんぽ~ん! えへへ、なんだかロマンチックって気がしない?」
無邪気な笑顔で、瑛夏は繋いだ手をぶんぶんと振る。
なっ……え、その。
え、瑛夏は深い意味で言ったわけじゃないはず!
ほら、初恋なんて幼稚園のときに終わってても不思議じゃ無いじゃない!
……私は別として。
「いつか、ここを誰かと手を繋いで歩きたいなんて密かに思ってたんだけど、それが小夜でよかったっ!」
相変わらずえへへと笑顔のまま、頬を微かに赤らめ瑛夏は私のほうを向く。
「なっ、なな、ななな……も、もう! ばば、バカじゃないのっ!」
「えへへ、照れなくてもいいんだよ~? それとも、あたしじゃイヤ?」
涙を浮かべ、上目遣いで私を見てくる瑛夏。
なんで私は同じ女の子にどきどきしてるの……。
「そ、そんなことは……ない、けど……」
「やった、えへへっ!」
私の気持ちを知らずか、本当に瑛夏は無邪気な顔で笑う。
「小夜、この上に行こうよ!」
瑛夏が指を刺した先には一つの高層マンションがあった。
まだ完成してないらしく、入り口付近には立ち入り禁止の看板とブルーシートが張られていた。
「……瑛夏、さすがにこの先はまずいんじゃ」
「見られなきゃ大丈夫だよ!」
……可愛い顔して、意外と悪である。
「ほらっ、小夜いくよ~!」
「……わわっ、瑛夏!」
瑛夏に引っ張られる形でマンションの中に入っていった。

中はほとんど完成されていて、近日中にはオープンできそうな程だ。
ここ最近はマンションだけが増えていって、入居者がいるかどうか疑問だけど。
「ん~、やっぱり電気はまだついてないかぁ」
エレベータのボタンを二、三度押しても反応がなく、ドアの前で瑛夏は小さくうなり声を出す。
「……それに、エレベータが動いたとしても明かりで私たちがいることがバレちゃうでしょ……」
「あっ! それもそうだね、えへへ」
誰もが最初に思いつきそうなところが欠落してるなんて……。
どこか抜けているというか、瑛夏らしいというか。
「……ほら、あそこの非常口。あそこなら屋上まで続いてるかも」
「お~! 小夜、ナイスだね! どこかのゲームでビルの66階まで駆け上がるなんてあったけど、あれを思い出すね~」
「……もうそれは拷問の一種ね……」
「ここはそこまで高くないから大丈夫だよ!」
瑛夏の声がやけにはりきってるような気がした。

「……で、確かにそこまでは高くなかったけれど……」
「は、はぁ……あくまでゲームだからあんなに走れるんだよね……」
女子中学生の体力なんてたかが知れている。
10階を過ぎたあたりからお互い息を切らしてきて、今はこの有様だ。
「で、でも……」
「……ん?」
「これはこれで、青春って感じだねっ!」
「……何か間違った青春ね」
「もうっ! そんなこと言わないの!」
それから私たちはお互い口を閉ざした。
屋上に行ったから何かあるなんて思ってないけど、ただこれが瑛夏とはじめて一緒にやる共同作業にも思えたから、だから闇雲に階段を上り続けた。
その間、ずっと手を繋いだままだ。
手を繋ぎ続けていれば、この薄暗い闇の中でもきっと孤独なんかじゃない。
人の、瑛夏の温かさを感じていられる。
それがどれほど幸せなのか、私は痛いほど身に染みて分かるような気がした。
階段を上がる苦痛じゃない、過去の孤独を思い出したわけでもない。
なのに、涙が出てくるのは何故?
視界がぼやけて、涙がとまらなくて、瑛夏に見られたら恥ずかしいじゃない。
涙なんて止まって、止まってよ。
私はいま幸せなんだから。
「……小夜」
「……変よね、今はこんなにも幸せなのに涙がとまらないの」
「変じゃない。うん、変なんかじゃないよ」
「瑛夏……」
「涙って悲しいときにだけ流れるんじゃない、幸せだから流せる涙もあるんだよ」
そう言った瑛夏の瞳から涙が流れていた。
瑛夏も……泣いてるの?
「幸せな涙を得る為には、不幸せな涙を流すよりもずっと大変なこと。その過程に障害や挫折、困難がいくらでも待ち構えてるから、だから、今あたしたちが流してる涙は変なんかじゃない」
「……うん、ありがとう……瑛夏」
幸せそうな世界なんて私は勝手に決め付けていたけど、瑛夏にも誰にも言えない心の影の部分があってもおかしくはない。
人の人生を決め付けないで、なんて言ってたのにその私が決め付けていて。
私はなんて最低なんだろう。
「……ごめん、ごめんね……瑛夏」
私は本当にひどい言葉しか吐けない人間だ。
だから、瑛夏に求める言葉だってきっと、ひどいことを言わせてる気がする。
ごめんね……瑛夏。
「ううん、大丈夫だよ」
ほら、ね。

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倉子かるです。
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紆余曲折しながら書いてます。
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