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くらしかるあわー
物好きの物好きによる物好きの為の毒電波発信のべる。
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2024/04/27 (Sat) 20:14
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2010/04/10 (Sat) 15:14
 

不可抗力とは人間にはどうすることも出来ないことであり、受けた人間はそれに対して善処することもなく破滅してしまう。
まさに今日の僕のことだ。
一日に数回気絶する男なんてものは、まずそうそういないんじゃないだろうか。
甘き蜜を吸いて、苦きを知る。
なんて、格好つけたことを言ったところで顔の痛みは引くことは無い。
「あの……椎名さん、大丈夫ですか?」
「……なんとか」
心配そうな顔で木之原が僕の顔を覗いてくる。
自分も転んだときに怪我をしたというのに、人のことを心配できる木之原は素直にすごいと思う。
そんな木之原の膝のところには、いつのまにか可愛らしい絆創膏が貼られていた。
「桜子ちゃーん!! ナナちゃんのことは心配してくれないのかよぉ?!」
「貴様のことを心配しても、それだけ無駄なことだろう、広瀬?」
「くそっ! りんりんのくせにぃ!」
「誰がりんりんだ、馬鹿者!」
広瀬の頭にもう一つ大きなこぶが出来たような気がしたけど、見なかったことにしよう。
「騒がしいのはいいけど、そろそろいいかしら?」
痺れを切らしたかのように、青葉が冷たく言い放った。
そのひどく冷たい言葉が妙に引っかかる。
「そういえば、どこに向かっているか聞いてなかったが、僕たちをどこに連れて行くつもりなんだ?」
「……強いて言えば展示室かしら。もっとも、そんなに華やかなものではないけれどね」
展示室……?
確かにこの学園には様々な出土品を飾る部屋はあるけど、そんなところに青葉が僕たちを連れて行くとは考えにくい。
「どうして私がここまで徹底して、君たちを呼んだ理由もその部屋にいけば分かるわ」
鋭い眼光で僕たちを睨みつける青葉。
何故だろう、さっきから青葉の言動一つ一つが暗く澱んでいるように見える。
苦しげで、辛そうな、そんな感じだった。
「……椎名さん」
木之原がぎゅっと僕の手を掴んでくる。
人に睨まれる経験なんてされたこともないだろう木之原だ、青葉に睨まれたことが少なからず怖かったことだろう。
「大丈夫だ、木之原」
握られた手をぎゅっと握り返す。
大丈夫。
先も分からないこの状況で使う言葉としては、少々残酷な言葉だと思う。
所詮気休め程度にしかならない。
それでも、木之原が笑ってくれたから僕の心もいくらか楽になる思いだった。
「それじゃ、先に行きましょう」
踵を返して、青葉はまた前に進む。
その後姿が、やけに弱々しく感じた気がした。

………。
……。
…。

廊下には僕たちの歩く音だけが響いて、それ以外は何も聞こえない。
正確には、誰も、一言も発してはいけないようなピリピリとした空気が張り詰めていた。
空気が重い。
喉がカラカラに渇く。
汗が滝のように流れでてくる。
いつになったら、拷問とも思えるこの時間は終わるのだろうか。
廊下を歩き、行くべきところに向かっている。
ただそれだけのことなのに、緊張で身が竦む思いだった。
「着いたわ」
端的に、透き通る声でそれだけを伝えてきた青葉。
「ここって……」
「音楽堂……ですか?」
杜林学園音楽堂。
杜林市の中でも1、2を争うくらい大きな音楽堂だ。
学生内に留まらず、外部からさまざまなアーティストを迎えては、コンサートが開かれていたりする。
音楽には無縁の僕からしてみれば、あまり立ち寄らない関係ない場所という認識だった。
「……ここに私たちが呼ばれた理由がある、そうなんですよね、青葉先輩」
「そうよ」
「あたし、音楽堂なんて数回しか来たことないからちんぷんかんぷんだったり……」
「瑛夏がクラシックなんて聴いてたら、翌日大地震が起きるかもしれないしな」
「し、椎名はどうなのよ?!」
「僕が聴くような人間だと思うか?」
「あ~、だね。質問したあたしが馬鹿だったと思う」
こいつ……やっぱり無い乳揉んでヒィーヒィーよがらせてやろうか。
いや、絶対にしてやる。
「さて、青葉。入ろうではないか」
「……ええ。みんなにもう一度だけ言うわ。もう、戻れないことを覚えておいて」
「ハルカちゃーんよ! なにをそこまでナナちゃんたちのことを心配してくれているのか分からないけど、ナナちゃんたちはここにいる時点で既に覚悟は出来てるんだぜぇ!!」
「……奈々緒」
奈々緒は強いな。
その言葉が不安による強がりだったとしても、それを口に出せる強さがあるかないかではだいぶ違ってくる。
普段はおちゃらけた部分が色濃く出ているから、尚更そんなことを思ってしまう。
「ふふ、そうね。ナオちゃんに言われるなんて私は末期かもしれないわね」
「ちょっと待て。ナナちゃん、ナオちゃんと呼ばれるのが」
「奈々緒、うるさい」
「しゅーん」
「いい? 入るわよ」
それから、青葉の手によって音楽堂の扉は開けられた。
今まで感じたどの一瞬よりも長く感じて、僕は身震いするのを隠せずにはいられなかった。
もう日常には戻れない。
どれ程の意味を持つ言葉なのか、まだ僕たちには理解なんて出来るはずがなかった。
いや、本当は出来ていたのかもしれない。
青葉とはじめて会ったときから、感じてた不安。
二度訊ねることを躊躇った疑問。
それが、その答えが、ここにある。
それだけは分かる気がした。

………。
……。
…。

シューボックス形式の音楽堂の中は荘厳な雰囲気で包まれていた。
何も行われていない今でさえ、偉大で、尊厳さも兼ね揃えていて僕みたいな学生にはあまりに場違いな雰囲気。
それが手に取るように分かる気がした。
これこそが音楽堂にあるべき姿なんだろう……ある、一点を除いては。
「ここまで運び出すのはなかなか苦労したのよ?」
中央へと続く階段を下りながら、苦笑いを浮かべつつ青葉はさして問題ではなかったのように呟く。
舞台中央にはパイプオルガンと艶々しく輝くグランドピアノ、それに大量の銃火器が無造作に置かれていた。
……冗談だろ。
僕の、いや……この場に居る全員の予想は見事に期待を裏切らないものとして形を為していた。
「お、おい……青葉」
「なに、椎名さん? ここは日本なのにどうしてただの女学生がこんなにも銃を所持しているのか、なんてつまらない質問なら答えないわよ」
「ダメだ、答えろ。そうじゃなきゃ、僕たちはお前のことを信用出来ない」
「信用……ね」
どこか遠くを見つめる青葉の瞳は少し愁いで帯びているような気がした。
どうしてそんな目をするんだ、青葉は。
「はぁ……まあ、いいわ。銃よりももっと大事なことを伝えるのが先だけど、今回は特別に教えてあげる」
「前置きはいい。さっさと教えてくれ」
「私の父が銃のコレクターでね、無可動実銃をよく集めているんだけど、それに合わせて本物の実銃も密輸していたのよ。そういうコネもいたらしくてね」
「なっ……」
あまりに突拍子もない話。
馬鹿げている、という表現以外何も見つからない。
「それを私が知ったのはつい最近のことよ。まあ……もっとも、最近という言葉がどれくらい近いのかは君たちのご想像にお任せするわ」
「……続けてくれ」
「ここからは本題も絡んでくるわ。何の因果か分からないけど、私たちはこの銃を手に取ることになる。それが明々後日の8月6日午前0時杜林七夕の日ね」
「ど、どうしてそんなこと分かるんですか……?」
「分かるから分かる。これ以上に説明のしようがないのよ、木之原さん」
またか……。
また、こいつだけ知っていて僕たちには何も教えない。
教えたくないのか、それとも教えるつもりが無いのか。
青葉の表情からはそれすらも読み取れない。
「しかし、青葉よ。貴様の話を黙って聞いていたが、何故私たちが必要な人間になるのかが分からないぞ」
「……確かにそうですね。銃を使うだけなら他の人にだって出来るはずです」
「小夜も大胆なこと言うね~。で、青葉先輩、そこのところはどうなんです?」
今まで黙って僕たちの会話を聞いていた藤林たちがここぞとばかりに青葉に質問を投げかける。
「……」
今まで強気の表情だった青葉の顔がどこか陰を落とした気がした。
分からない、何故青葉はこんなに悲しそうな顔をするのだろうか。
「ナナちゃんは、信用するしないとかそんなことどうでもいい気がするぜ」
「ナオちゃん……」
「バカだし、今だってよく分からないで話を聞いていたけどさ、ハルカちゃんがナナちゃんたちを必要とするなら手を貸す。困った可愛い女の子の頼みだぜぇ、修兵ちゃーん!」
ぐっと僕の前に親指を突き出してくる奈々緒。
今日の奈々緒は奈々緒らしくない気がする、勿論いい意味でだが。
そうだな……大事なことを忘れていた。
困っている女の子の為なら、ロリじゃなくても、貧乳じゃなくても、助けてあげる。
それが、椎名修兵という人間だろ。
「……あぁ、そうだな。お前に気付かされるなんて僕も末期かもしれないな」
「修兵ちゃーん、ひどくねぇ?!」
「僕たちはまだまだ青葉のことを分からない。だけど、それは青葉だけに限った話なんかじゃないんだ。信用するには時間が必要か? 違う。信用も、必要なのかも、それは僕たち次第なんだ。だから、信じよう、青葉を。そうだろ、奈々緒」
「うっひっひー、さっすが椎名ちゃんだぜぇ!」
「ふっ……椎名は軽い男だな。いいだろう、その考え気に入った」
「椎名のくせにまともなこと言うなんて生意気ね。でも、あたしはそんな考え嫌いじゃないよ」
「……瑛夏と一緒ならどこへでも着いていきます」
「怖いけど……でも、私に出来ることがあるなら、私も……やります……!」
青葉はそんな僕たちの言葉を黙って聞いていた。
だけど、さっきまで影を落としたような表情ではなく、どこか和らいだような、そんな表情だ。
「みんな……」
「その……さっきまではごめんな。だから、改めてよろしくの握手だ」
「……ええ!」
さっきは空を切った青葉の握手を、今度は僕のほうから求めにいく。
それが酷いことだとは分かっているけど、青葉は気にしていないそんな様子だった。
少しだけ、何かが変わったような音が聞こえた気がした。

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